風の音づれ Vol.64 光の春
開智所沢キャンパスから国道463号(浦和所沢バイパス)を西へ進んだところに、所沢航空記念公園の木立が広がっています。この地に日本初の飛行場が建設されたのは1911年4月4日のことでした。翌4月5日、飛行場開設を祝って、前の年の12月に試験飛行をしたばかりの徳川好敏大尉が操縦するフランス製のアンリ・ファルマン複葉機が、初めて所沢の空を飛びました。その二か月後には、所沢-川越間の飛行に成功しています。所沢は、日本航空発祥の地。銀の翼を輝かせて青空に飛翔するアンリ・ファルマン機のオブジェは、まさに所沢のシンボルと言えます。
2月に入ったある日、所沢航空記念公園を歩きました。園内には、花の盛りを迎えた100本ほどのロウバイが放つ、何とも清々しい香りが漂っています。ロウ細工のような黄色い花びらを透かすように降り注ぐ午後の光に、心細げな冬の日差しとは違ったまぶしさが感じられました。百花に先駆けて春を呼び込むロウバイの、凛とした趣に心を奪われながら、しばしの時を過ごしました。
気象学者の倉嶋厚さんが、『お天気歳時記』という本のなかに、こんな言葉を遺しています。「二月の光は誰の目から見てももう確実に強まっており、風は冷たくても晴れた日にはキラキラと光る。厳寒のシベリアでも軒の氷柱から最初の水滴の一雫が輝きながら落ちる。ロシア語でいう『光の春』である。」―立春を過ぎてのち、誰の目から見ても疑いようのない春がやってくるまでのおよそ一カ月を表現する言葉が“光の春”。移ろいゆく季節を縫いとめる言葉として、これほど清爽で気高いものは他にないでしょう。
ロウバイのもとを離れて園内を奥に少し歩くと、小さな梅園があります。これから、武蔵野はまさに梅の香りにまるごと包まれていきます。ロウバイからバトンを受け継ぐように、どの枝先からも次々に、花がこぼれ咲いていました。
学校という場に長く身を置いている私たちにとって、梅はやはり特別な存在です。中学入試・高校入試・大学入試が連なり、はじけるような喜びと、唇をかむ口惜しさとが交差していく二月。その花の香りは、様々な思い出を一気に甦らせるものです。
2月10日の第二回転編入学試験をもって、(仮称)開智所沢小学校の入試・編入試の全日程が終了しました。私たちは、この機会を通じてお会いした全ての皆様の思いをしっかりと胸に留めて、開校初年度の営みを進めてまいります。ありがとうございました。 (片岡)