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Croquis No.1 常に新しくあること

 「表現者は、常に新しくなければならない。」—日本を代表するチェリストであり、元桐朋学園大学学長、現在はサントリーホール館長を務めておられる堤剛先生が、よく口にされた言葉です。かつて桐朋学園理事会で幾度となく堤先生とお会いしましたが、私はこの言葉を「教員は…」と読み替えて、勝手ながら座右の銘とさせて頂いております。

 堤先生の金言を引かせて頂くのは誠に気恥ずかしい、取るに足らぬ昔話ですが、もう40年も前に私が私立中高の教員となった時、10代のみずみずしい感性を持った若者たちの前に教員として立ち続けるためには、自分自身が常に新しく学び続ける姿勢を持たなければならないと思い、ある一つの誓いを立てました。大学時代、美術サークルに身を置いていた私は、勤務先の学園祭に毎年必ず、油絵を一枚出品しようと心に決めたのです。油絵は素人同然でしたが、それでも自分を表現し続けることで、その都度自分を更新することができるのではないかと考えました。

 それから定年退職までの37年間、とりわけ子育ての時期や、役職として多忙を極めた時期など、時間を無理やり作ってキャンバスに向かうのは思っていた以上に大変でしたが、どうにかこうにか、その誓いを全うすることができました。とは言え、半ば意地になってやり続けたことですので、表現者としてはかなり怪しげです。少なくとも、一年に一枚描くだけでは油絵は全く上達しません。今はせいぜい、年賀状のために小さな水彩画を描く時にしか絵筆を握ることは無くなりました。ちなみに今年の年賀状は、ウクライナで、あるいはガザで苦難に直面している多くの子どもたちへの祈りを込めて、宇都宮市・松が峰教会の聖堂を描きました。ご笑覧頂けますでしょうか。

 この度、ご縁を頂いて開智所沢小学校の開校に携わり、校長として再び子どもたちの前に立たせて頂くことになりました。堤先生にお叱りを受けることのないように、日々「新しくある」ことを心がけてまいりたいと思っております。このブログも、絵筆を握ったつもりで“描いて”まいります。

 表題のクロッキー(croquis)とは、人物や動物など動きのある対象をつかまえて、ごく短時間で描くことを言います。絵画制作のためのいわば訓練であり、スケッチブックよりも薄い、ノートに近い練習帳に描き溜めていきます。大学の美術サークルでは、お互いがモデルとなって思い思いのポーズをとりながらお互いを描き合う、このクロッキーをよくやりました。これから折にふれて、開智所沢の子どもたちのこと、東所沢の四季の移ろいのこと、そして世の中で話題になっていることなどをモチーフとしながら、描き溜めてまいりたいと思っておりますので、皆様どうぞよろしくお願い致します。

開智所沢小学校 片岡哲郎