新着情報

風の音づれ Vol.47 幽かな秋

 「秋来ぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる」
 『古今和歌集』に収められている、平安初期の歌人・藤原敏行の名歌です。敏行はこの歌を「秋立つ日詠める」とありますが、今年の立秋(8月8日)の頃を思い出せば、毎日のように猛暑日が連続し、街中のどこを見渡しても秋の気配など見出すことはできませんでした。それでも9月半ばに差し掛かってようやく、朝夕の風に幽かな秋の匂いを感じるようになりました。
 藤原敏行の没後およそ100年後に成立した『枕草子』の第一段で、清少納言は秋をこう表現しました。「秋は、夕暮れ。夕日のさして、山の端いと近うなりたるに、からすの寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。…」本来“夕焼け”は夏の季語ですが、むしろ秋の印象が強いのは、彼女のこの一節が私たちの心に強く働きかけるからでしょうか。日が短くなるにつれて、物寂しい思いを抱きがちな“帰り道”に、夕焼けのタイミングが重なることも、理由の一つかも知れません。空が広いつくばみらい市でもしばしば印象的な夕焼けを眺めることができます。こちらは開智望小学校のある新守谷駅での、秋の夕景です。

 開智望小学校のキャンパスでは、秋の風を受けて、ツユクサの花がまるで小さな蝶々のように揺れています。花期の長いツユクサは、梅雨時から咲き始める夏の花ですが、朝に花弁を開いてお昼までにはしぼんでしまうはかない風情からか、秋の季語とされています。万葉集にも9首詠まれているように、古くから染料として、あるいは生薬としても日本人に親しまれて来ました。もっとも、ツユクサで衣を染めてもすぐに褪色するので、万葉人はツユクサを移ろいやすいものの象徴として歌に詠み込みました。
藍や茜、紅花、紫草などの染め物が広く用いられていくにつれ、ツユクサ染めは次第に衰退していったようです。ところが、江戸時代に入って、ツユクサの移ろいやすさが再び注目されることになりました。宮崎友禅という絵師が、水で簡単に色落ちするツユクサの性質を活かして、染め物の下絵を描く絵具として利用することを思いついたのです。まさに発想の転換。はかない存在でしかなかったツユクサが、友禅染の技術を発展させるきっかけとなったというこのエピソードは、実に素敵ですね。

これから始まる秋はthoughtfulな季節。他者の欠点を欠点と決めつけずに、不完全さを逆に可能性として捉えられるような心の余裕を持って、日々過ごしたいものです。

(片岡)