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風の音づれ Vol.164  教員研修~探究で身に着けるリーダーの素地~

 開智所沢小学校では定期的に教員研修を実施し、日々の教育活動の質の向上につなげております。8/27(木)にも本校の教員が一堂に会して、日々の探究の授業を見つめなおすことを目的に教員研修の場をもちました。この日は講師をお招きしての講演会が実施されました。ゲストティーチャーはメドメイン株式会社を設立した代表取締役の飯塚統さんです。

 飯塚さんは1991年生まれで東京都のご出身、18歳のころに腎臓病で長期入院したことをきっかけに医学の道を志されます。九州大学医学部医学科に進学し、在学中にAIやWebを中心とした多くのソフトウェア開発を行います。その後ベンチャー企業でWebエンジニアとして実務を重ね、シリコンバレーで開催されたピッチコンテスト「Live Sharks Tank」で優勝を収めました。2018年にメドメイン株式会社を設立。2020年にはForbesが発表した「Forbes 30 Under 30 Asia」のHealthcare & Science部門で選出された方です。

 メドメイン株式会社は、世界中で不足している病理医の診断のワークフローの改善と効率化に向けて、AIでがん細胞の有無を判断するシステム開発に取り組んでいる会社です。医療とエンジニアの二刀流であった飯塚さんだからこそなしえた事業です。

 

 飯塚さんの輝かしいご活躍は枚挙にいとまがないのですが、本日のご講演の中で印象的だった3つの点について以下に記したいと思います。

 1つ目は『スタートアップ』という言葉の意味についてです。会社を設立することは文字通りスタートアップであるという印象をうけますが、事業には一般的な事業とスタートアップ事業の2通りがあるというお話でした。

 水源から水を運搬する事業を例にすると、バケツリレーのように人力で運搬するのが一般的な事業。この場合、人員や時間をかけた分だけ、ある程度確実に成果があがります。

 一方、スタートアップ事業は水源から水道管を建設するような事業です。建設当初はなんの成果も出ないうえに膨大な初期投資が必要になりますが、ひとたびスタートアップ事業が軌道に乗ると、大きな利益が生まれます。なにより運搬先を増やす際に、バケツリレーではさらなる人員と時間が必要となりますが、水道管の増築ははじめと同じ規模の投資でまた大きな利益を生むことができます。

 しかしながら、人々が水を必要としていることが前提となります。また、マーケティングが不十分だと水脈のない土地に水道管を建設してしまうことになりかねないそうです。地球上の人々が何でこまっているかを把握すること、自分の知識や経験を通じて困っている人々を助けることこそが、スタートアップの原点であるといえます。飯塚さんが気づいてくださったのは、世界中における病理医の不足だったというわけです。

 2つ目は、飯塚さんの小学生時代の学習活動のお話です。都内の私立小学校に通っておられた飯塚さんにとって印象的だったのは、『みいつけた』と呼ばれる活動だったそうです。子どもたちが身の回りの生活で見つけた疑問を記録して調べるというもので、「線路は遠くへいくと細くなる」「コップの水は目いっぱい注ぐと水面がふくらむ」などの疑問が挙げられていたそうです。自分で見つけた疑問を探究するという、社会人(ましてやスタートアップ事業の設立)に不可欠なサイクルが、幼少期から醸成されていたように思うとのことでした。

 3つ目が最も教員の心に残ったお言葉でした。飯塚さんは、正解のない/分からない課題に直面しても、自分ならば何かしらの方法で成果を形にできるという『漠然とした自信』があるとおっしゃっていました。探究サイクルが身についている社会人が得られる非認知能力の一つをとても的確に言い表していると感じました。

 「漠然とした自信」を持っていることを履歴書に書くことは難しいです。なぜなら、英検や模試の結果が数値化してくれる認知能力ではないからです。ですが小学生のうちから自分で疑問を見出し、自分でそれを調べ、正解がない問いと向き合い続けたからこそ得られた、文字通り生きる力だといえるのではないでしょうか。

 起業に先だって飯塚さんがシリコンバレー(まさにスタートアップ事業のメッカ)で過ごしていたころ、周囲の方々は学歴や職歴などの過去には目もくれず、どんなアイデアでどんな人々の役に立ちたいかという未来の話に終始していたそうです。そしてアイデア自体にはそれほど価値はなく、とにかく試してみるスピードと、失敗から得られた学びの方を評価されるとのことでした。アイデアを持ちながらも足踏みしている多くの社会人は、言うなれば丸付けを待っている状態と似ており、文字通り机上の空論です。正解かどうかを重要視する学びを通じて優秀であると評価されてきた責任感から、行動力に無意識の制動がかかるのでしょうか。

 飯塚さんが長きにわたる探究サイクルを通じて身につけられた「漠然とした自信」こそが、未来を切り開くリーダーの素地の中核と言えるかもしれません。



 本校での教員研修は教育学部での授業の延長のような活動に留まらず、開智所沢小学校のミッション(存在意義)に立ち戻り、こどもの日々の学びを本質的に見直しています。まだ開校3年目という時期ではありますが、将来本校の卒業生が地球のあちらこちらで困っている人々を手助けしている姿を見ることが、いまから楽しみでなりません。



 飯塚統さんの講演の内容には、教員一同、力強く背中を押していただきました。ご多忙の折、ご来校いただきましたことを心より感謝申し上げます。

 末筆ではございますが、メドメイン株式会社のますますのご発展により、より多くの命が救われる未来を心待ちにしております。