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Croquis No.17 ~走り梅雨・点景

 5月30日(金)、5年生のあるクラスの風景です。どんよりと曇った午後の空に向けて、小さな天使たちが一斉に飛び立ったかのようですが、よく見ればそれは、色とりどりのてるてる坊主でした。

 実は、首都圏では3月末からここまで、実に9週連続で週末に雨が降っていたのです。このてるてる坊主には、翌日の土曜日に予定されているスポーツフェスティバルに向けた、子どもたちの切なる思いが込められています。

 

 2023年6月21日の毎日小学生新聞に、てるてる坊主の起源についての記事があったのを思い出しました。一般に広く知られている説は、中国の「掃晴娘(サオチンニャン)」という風習が日本に伝わったというもの。しかし、25年間もてるてる坊主を研究している会社員・高橋健一さんは、民俗学者・柳田国男さんが唱えた「天気祭」~大雨を降らせる悪霊をわら人形などに閉じ込め、燃やしたり川に流したりして悪霊を追い出す行事~を起源とする説を、より有力と考えています。形代(かたしろ)に悪霊をうつして身代わりに川に流す風習が、日本では古代から存在していました。流し雛や、七夕の短冊にも共通するものですね。

 

 さて、てるてる坊主はその力を発揮したのでしょうか?残念ながら5月31日(土)は午前中を中心に大荒れで、週末の雨は10週連続へとその記録を伸ばしました。しかし、予備日の6月1日(日)はごらんの晴天に恵まれ、新装なった中等教育学校のグラウンドで、子どもたちはのびのびと、スポーツフェスティバルを楽しむことができました。

 詳しくは、学校HPブログ「風の音づれ vol.116」を、ぜひご一読下さい。てるてる坊主の効力について「科学的には証明されていませんが、こうした風習が続いているからには、きっと効果があるからだと思います。」と、高橋さん。これから長く続く雨の季節が、少し楽しくなるような話ですね。

 

 5月の半ばを過ぎた頃、学校裏手の雑木林の藪からこぼれ咲いている白い花を見かけて、懐かしい気持ちになりました。

 湿気の多い今の季節に、思いがけぬほど清涼感のある香りを漂わせているこの花は、すいかずら(忍冬、吸い葛)。2年前、所沢準備室が置かれていた開智望小学校でもこの花を見かけました。図鑑などには、一つひとつの花は短命でも次々に花が開くので花期は比較的長いと書かれていますが、私の印象では、この花が見られるのは走り梅雨の頃で、紫陽花が咲く頃になるとすっかり影をひそめてしまいます。

 

 ちなみに、“奇跡の人”ヘレン・ケラーの手のひらにサリバン先生が指文字でw・a・t・e・rと綴りながら、もう片方の手に冷たい水を注ぎ続けたあの井戸も、すいかずらで覆われていたそうです。ヘレン・ケラーが光や希望、喜びを手にすることになったその奇跡の一瞬に、甘く澄み切ったこの香りがあったというのも、偶然ではないかも知れません。

 

 すいかずらの花は、去っていく5月が残した、爽やかな“ことづて”でしょうか。暦はこれから、いよいよ梅雨を迎えます。

                             開智所沢小学校 片岡哲郎