新着情報

Croquis No.18 ~たのしみは…

 近畿地方は、統計開始以降最も早い6月27日に梅雨明けが宣言されましたが、関東地方の梅雨明けは七夕以降に持ち越しとなりそうです。もっとも、気象庁が梅雨入り・梅雨明けの日を最終的に確定するのは9月ですから、その時になって、「天気図上から梅雨前線が“消滅”した6月17日が、やっぱり梅雨明けでした…」となっているかも知れません。年々、梅雨の輪郭があやふやになっているような気がします。

 学校の風景は、もうすっかり夏の装いとなりました。暑い朝、登校する子どもたちを出迎えるのは、一年生が育てている朝顔です。元気につるを伸ばして、もうフェンスの外側で花を開かせる鉢もあります。つるがフェンスに絡んでしまうと、夏休みに自宅に持ち帰るのが大変ですね。

 「朝がほに 釣瓶(つるべ)とられて もらひ水」(井戸の釣瓶に、朝顔のつるが巻き付いてしまって、取り除くのがかわいそうなので、近所の井戸から水をもらってこよう)心優しいこの句の作者は加賀千代女、江戸時代で最も有名な女性俳人として広くその名を知られています。千代女は、1703年加賀の国の生まれで、12歳で俳句を学び始め、17歳の時に松尾芭蕉の弟子である各務支考にその才能を見出されて、一躍有名になりました。この朝顔の一句も、若い頃の作品だと言われています。

 

 開智所沢小学校の子どもたちの感性はどこまで磨かれているでしょうか。校舎の廊下を歩きながら、6年生が詠んだ短歌の短冊が目に留まりました。「たのしみは…」という最初の五文字が決まっていて、残りの二十六文字でそれぞれの頭に浮かんだ“楽しみ”というものを表現しようという企画です。短歌も俳句も日本を代表する定型詩ですが、三十一文字の短歌には、俳句と比べてより直接的に自分の心情を込めることができます。

 例えば、“初対面の子”の一首。今の6年生はみな、5年生の時に編入で開智所沢小学校に来てくれた子どもたちですから、共通の話題が見つかったことで、まずはホッとした、というのが偽らざる気持ちだったかも知れません。「ここが、自分の居場所」と感じられることが、あらゆるたのしみの前提条件なのです。それから、“夕暮れの時”の一首。『サザエさん』や『ドラえもん』で描かれるノスタルジックな放課後の風景が連想されます。子どもをとりまく環境がすっかり変化した今の時代、友達と一緒にこんな夕焼けに包まれる体験は、もう無くなってしまったのかも知れません。だからこそ、ここで詠われる“たのしみ”を、学校生活の中で味わってもらえればと、心から思います。全部は、とても紹介しきれませんが、62首の短冊から、気取りのない12歳の感性が垣間見えたように思います。

 開智所沢小学校の校門横の畑に、今年も向日葵が咲き揃いました。向日葵がその名の通りに、太陽を追って向きを変えていくのは、蕾をつけるまでの若い成長期に限ってのこと。その姿はさながら、眩しい陽射しを縫いながら歓声を上げる子どもたちの姿の、二重写しのようです。

 

                                     開智所沢小学校 片岡哲郎