新着情報

Croquis No.6  ~フェニックスを鳥かごに

 開智所沢キャンパスを囲む雑木林では、ついこの間まで発声練習をしていた蝉たちが、見えない指揮棒に合わせるかのように一斉に合唱を始めました。照りつける太陽の光は、単に暑いというより、まるで“重さ”を伴ってのしかかってくるように感じられます。列島全体が火の窯の底に押し込まれたような、大変な7月の幕明けとなりました。

 7月5日、開智所沢小学校の昇降口でも、いつも学校を応援して下さっている地元東所沢の皆さんから頂戴した笹に、1年生2年生が自分たちで作成した七夕飾りや、思い思いに願い事を書いた短冊を結びつける、微笑ましい作業が行われました。

「走るのが速くなりたい」「ハワイに行きたい」「家族が長生きできますように」…七夕の短冊に書かれた願い事を読むうちに、こちらも自然と笑顔になっていきます。

 ふと目に留まったのは、ある2年生の男の子が書いたこの短冊でした。

「フェニックスをペットにしたい」~読書を通じてファンタジーの世界を垣間見たのか、あるいはRPGゲーム等で自然に体得したのか、彼がこの願いを書いた理由まではわかりませんが、本来は枠にはまらないフェニックスを、鳥かごという枠に入れてしまおうという、悠々としたスケール感になんだかとても惹かれます。

 この時期、子どもたちに七夕についてのお話をされる先生方も多いことでしょう。国立天文台のサイトによれば、ベガとアルタイルを隔てるその距離は14.4光年。1光年は、光が一年かかって進む距離を指しますが、計算するとそれは9兆4,600億㌔という途方もない距離なのです。だから14.4光年というのは…ちょっと想像ができません。二人がお互いに光の舟に乗って天の川に漕ぎ出しても、逢うまでに7年以上かかってしまうのです。この絶望的な距離を一夜で飛び越えようとする荒唐無稽のストーリーも、人間の旺盛かつ柔軟な想像力の賜物です。

 さて、七夕を過ぎて、いよいよ一学期も総仕上げの時期に入りました。夏休みを前にして、子どもたちはそれぞれ、夏休みの間に時間をかけて取り組む個人探究の計画を立てています。子どもたちが選んだ探究テーマには、短冊に書かれた願い事以上に、それぞれの個性があらわれています。その伸びやかな発想力や豊かな感性をもってすれば、フェニックスを鳥かごに入れる方法だって、本当に見つけることができるかも知れません。

 東川にかかる新日比田橋から学校の正門を経て浦和所沢バイパスに至る緩やかな上り坂は、サルスベリの並木になっています。ひと夏を貫く花期の長さから、百日紅という中国名を持つサルスベリ。実は一つひとつの花は一日で萎んでしまうのですが、新しい蕾が次々に開花することで全体としての鮮やかさを保っているのです。人間の知性には涯がないように思えますが、自然界から教えられることも本当にたくさんありますね。夏全開と言える暑さのなかで、まさに時を得たように鮮やかなピンク色の花が次々とあふれ出しました。これから百日続く夏のあいだ、この花は子どもたちに声援を送り続けます。

開智所沢小学校  片岡 哲郎