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風の音づれ Vol.56 クリスマスの季節に 

 「明治屋のクリスマス飾り灯ともりて煌やかなり粉雪降り出づ」

 歌人・木下利玄が1912年に詠んだ一首です。横浜で開業した明治屋がクリスマスツリーを初めて飾ったのは1886年12月7日のことでした。12月7日が「クリスマスツリーの日」とされる所以です。開智所沢準備室のある開智望小学校への通勤に使っているつくばエクスプレスの沿線でも、流山おおたかの森や柏の葉キャンパス駅前の現代的なイルミネーションが多くの人の目を楽しませています。その一方で、関東鉄道守谷駅の改札に飾られたクリスマスツリーの、どこか家庭的でつつましい味わいは、私にはかえって好ましく思えます。

この季節になると思い出すのはオルコットの『若草物語』(1868)。それは貧しい4人姉妹のクリスマスから始まります。若い姉妹は最初、ちょっと不平を言います。「世の中は不公平だわ。きれいなものを、たくさん持っている女の子もいるのに、私たちはなんにもないんですもの。」でも、三女のベスが、母の上靴がすり切れているのを見て、「お母さまに、みんなで何かプレゼントをしましょうよ。」と提案します。4人はそれぞれ、あたたかい上靴・手袋・ハンカチ・香水を用意します。クリスマスの朝、4人のベッドの枕の下に、一冊ずつ『聖書』が入っていました。長女のメグには緑色、次女のジョーには赤、三女のベスにはうす紅、末っ子のエミーには青い表紙の小さな聖書が、贈られます。クリスマスに本をプレゼントする習慣は、19世紀の英国で生まれたとのこと。これはとても印象的な場面でした。

開智望小学校の廊下にも、クリスマスを前にひとときの華やぎが生まれています。たとえばこれは、「ものづくりクラブ」の子どもたちが制作したレジンキーホルダー。クリスマスツリーを意識したフレームに、手作りのオーナメントが外光を透かして美しく輝いています。

こちらは、壁一面に飾られた「本気の塗り絵クラブ」の作品群。いくつものクリスマスツリーや雪だるまを思い思いに塗り分けています。

一つひとつ心を込めた手作りの作品には、血の通った温かみが感じられます。

 

 12月最初の週末は真冬のような冷え込みで、東京でも初霜が観測されました。それでも開智望のグラウンドを歩くと、セイヨウタンポポの花を三つ四つ見つけることができます。低く身をかがめ、大地に張りつくようにして冬の寒気を受け止めながら懸命に咲くその姿に、小さな感動を覚えます。

 逆境の中でも明るさを失わないタンポポは、オルコットの描く4人姉妹との、微笑ましい二重写しのようです。

(片岡)